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千葉地方裁判所 昭和32年(ワ)133号 判決 1957年12月18日

原告 遠藤輝夫

被告 田中ワキ 外一名

主文

被告らは、原告に対し別紙目録記載の建物につき昭和三十二年三月十日付売買による所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一  訴外小林隣三は、原告に対し、昭和三十二年二月二十六日振出の額面金三十四万円、支払期日同年三月二十七日、支払地および振出地東京都中央区、支払場所株式会社第一銀行兜町支店、振出人訴外小島甚吉、宛名人小林隣三の約束手形を裏書譲渡した。

二  しかして小林隣三は、昭和三十二年三月十日当時同人が入院していた国立病院習志野療養所において、右約束手形の振出人である小島甚吉立会いのもとに右手形債務の支払に代えて自己の所有する別紙目録記載の建物(以下本件建物という)の所有権を原告に移転する旨の契約をした。

三  ところが小林隣三は、昭和三十二年三月十六日右療養所において死亡した。よつて原告は、その相続人である被告らに対し、本件建物につき所有権移転登記手続を求めるために本件に及ぶ。

と述べ、

立証として、甲第一ないし第七号証を提出し、証人小林ヨツ同小島甚吉の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は認める、と述べた。

被告高橋イトは、請求棄却の判決を求め、

答弁として、

一  原告主張の事実は、小林隣三が被相続人であることは認めるが、その余の事実は知らない。

二  被告高橋は千葉家庭裁判所に対して被相続人小林隣三に対する相続放棄の申述をし、同申述は昭和三十二年六月二十七日に受理された。したがつて被告高橋は本件建物に対する所有権を有しないから、原告の本訴請求は理由がない。

と述べ、

立証として、乙第一号証を提出し、甲第一ないし第三号証の成立は知らないが、その余の甲号証の成立は認める、と述べた。

被告田中ワキは、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述されたものとみなされた答弁書によれば、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、被告高橋と同趣旨の陳述をしている。

理由

被告らは被相続人小林隣三に対する相続放棄をしたから本件建物に対する所有権を有しないので、原告の請求は理由がない旨主張する。

成立に争いのない乙第一号証によれば、被告ら主張のように相続放棄をした事実を認めることができる。

しかしながら、相続の放棄をした者は、その放棄によつて相続人となつた者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意をもつて、その財産を管理しなければならないのであるが、被告として応訴し防禦をすることも右の管理に属すると解するのが相当であるから、被告らの右主張は理由がない。

成立に争いのない甲第四号証、証人小島甚吉の証言により成立が認められる甲第二号証、同小林ヨツの証言により成立が認められる甲第三号証、同証人らの各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は訴外亡小林隣三からその主張のような乙第一号証の約束手形を裏書譲渡しということでその交付を受けたが、不渡となつたので同訴外人に請求しようとした矢先同人が病気となつたため、振出人の小島甚吉に請求したところ、同人は振出した事実がないというので同人と一緒に昭和三十二年三月十日小林の入院先である国立病院習志野療養所に行つたところ、小林が小島の名義を冒用して振り出したことが判明し、ここに小林は原告に対しその負担する債務の支払に代えて自己の所有する本件建物の所有権を移転する旨の契約が成立したことが認められる。

そうだとすれば、被告らは原告に対し本件建物につき所有権移転登記をする義務があることとなる。

よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉田良正)

(別紙略)

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